「ビジネス×アート思考」を身につける。対話型美術鑑賞のすすめ
「アーティスト」のアート思考
最近、書店に行くとビジネスパーソン向けに「アート思考」というタイトルをよく見かける様になりました。
アート思考と聞くと、「私には芸術の才能もないし、美術についての知識なんて皆無だわ。」と思ってしまうかもしれません。
しかしここで使われる「アート思考」とは、「美術品の価値や見方」という意味合いではなく、
「アーティストとして活動する人たちの、物事の観方や考え方」という意味での「アート思考」と解釈した方が良いかもしれません。
今回は、ビジネスパーソンに必要とされる「アート思考」について深掘りし、アート思考を高める対話型鑑賞について、ご紹介します。
「デザイン思考」と「アート思考」の違い
つい数年前までは、「デザイン思考」という言葉がビジネスパーソンの間で流行していた様な気がします。
それがいつの間にか、「アート思考」という言葉があちこち飛び交う様になりました。
「デザイン思考」とは、デザイナーがデザインを行う過程で用いる、特有の認知的活動を指す言葉として使われています。
デザイン思考とは
1. Empathize:ユーザーが何を求め考えているか観察・共感しニーズを探る
2. Define:調べたことをまとめ、真のニーズを洗い出し、問題を定義する
3. Ideate:定義された問題に対し自由に意見を交換して、具体的にどうアプローチするか考える
4. Prototype:試作品を作ってアイデアを具現化し、機能性・効果・実現性について検討する
5. Test:ユーザーに実際に使ってみてもらい検証し、改善点を探って最終的な解決策を目指す
この様にデザイン思考は、ユーザーの悩みや望みを明確に認識し、それを実現させるための思考プロセスです。
それに対し「アート思考」とは、「考えもしなかった、全く新しい問いを立てる」ためのアプローチ、といえます。
個人の生活レベルでの「問い」から、天動説を地動説にひっくり返してしまう様な「問い」まで全て含まれるでしょう。
テクノロジー化が進み大きな転換期を迎えた現代には、誰もが言葉にできなかったけど薄々感じていた疑問を深く探求し、
世間に「新しい問いかけ」を提示しできる能力、つまり「アート思考」がとても重要になる、
と、ビジネス界で考えられているのではないでしょうか。
「常識」を疑うアーティストたち
「仕事ってする必要あるの?」
「じぶんの家なんて、無くてもいいよね?」
「男女の性別なんか必要ないでしょ。」
10年前、こんなことを街中で叫んでいたら「頭のネジが外れた、おかしなやつ」と思われていたのではないでしょうか?
そんな中、「アーティスト」と言う人種は、その様な常識に対して、真っ向から立ち向かっていました。
太陽は動いていないことを証明したコペルニクス。
「便器」を芸術品に変えた、マルセル・デュシャン。
ピクセルの集合体を「美しいフォント」に変えたスティーブ・ジョブス。
誰も疑わなかった現状の世界を嫌い、表現をし続けた人たちです。
「そもそも、これって間違ってない??」と言う気づきや発見を、
深く深く掘り下げているのがアーティストと呼ばれる人たちなのかもしれませんね。
全身を使って「感じる力」
新しい問いを立てるためには、日々、疑い考え続けることは必要です。
しかし、それだけではなく「説明できないけど、感じる何か」を発見することも「アート思考」の大切な要素なのかもしれません。
理屈ではなく、目や耳、肌から体験することによって気づく「自分の琴線に触れる何か」「第6感の様なもの」とでも言うべきでしょうか。
これも「アート思考」の中に含まれる一つの要素ではないでしょうか。
ビジネスの世界では、数字はとても重要な「ものさし」となります。
売上げや、顧客、価格…目に見える数値をもとに、次のアクションを起こさなければなりません。
しかし、その「目に見えるモノサシ」をいくら上手に使っても、行き詰まる経営者が増えている様です。
不確実・不透明と言われる時代には、目に見えるものだけではなく、「目には見えないもの」を発見できる力があるからこそ、
革新的なサービスを提供することができるのでしょう。
アート思考は「探求する力」
「アート」という言葉を使っていると、誤解を招きそうです。
ミュージシャンのこともアーティストと呼びますし、お絵かきをする子供もアーティストと呼んだりするでしょう。
前代未聞の脱獄犯でさえも、アーティストと呼ばれたりしますよね。
だからと言って「みんな、本当はアーティスト」と言う言葉を使うと、なんだか嘘っぽい印象を受けてしまいそうです。
それくらい、正確には定義できない曖昧に言葉なのでしょう。
しかし、「アート思考」は、特別な人間じゃなくても自然と実践しているのではないでしょうか。
「学校行きたくない、学校って必要?」って思ったこともあるし、
「なんかわからないけど、頂上に登りたくなった!」など
「気づき・疑問・発見」は普段からしているはず。
言葉に出していないだけで、何かしら頭の中で自分しか考えついていない様なアイデアだって、
みんな一つくらいは持っているでしょう。
この自分だけが気づいた小さな発見は、「アート思考の第一歩」と呼んでもいいのかもしれません。
しかし、アーティストと呼ばれる人の中に染み付いている「アート思考」とは、「探求し続ける力」なのだと思います。
自分の中に生まれた疑問や興味を深く深くより下げ、まるでそれが自分の使命の様に
全てを犠牲にしてでも問い続ける姿勢は、生半可なものではありません。
利益や対価を得ることを目的とせず、「自ら新しい問いを立て、探求し、挑戦し続けること」が、「アート思考の実践者」であり、
真のアーティスト、と周りから呼ばれるのかもしれませんね。
探求し続ける力が身に付く、対話型アート鑑賞
対話型アート鑑賞は一つのアート作品を、みんなで自由に発言しながら観る、鑑賞法です。
ナビゲーター(ファシリテーター)の問いかけによって、
多面的に物事を捉える観察力や、それを論理的に説明する表現力、が自然と身につきます。
1980年代にニューヨークで生まれたこの鑑賞法は、教育機関だけではなく、
ビジネス界にも応用され、近年注目を集めています。
対話型アート鑑賞では、アート作品の作られた年代や背景などの「知識や情報」から観るのではなく、
自分の眼で見て、感じたことや疑問に思ったこと、発見したことを自由に発言しながら観ることができます。
「正しい答え」は全く必要ではなく、むしろ鑑賞が終わった後に「新しい問いを立てる」ことが目的です。
この鑑賞法によって、自問自答する力がつき、知的好奇心や探究心を、楽しみながら育むことができるのです。
対話型アート鑑賞に参加して、新しい時代を創るための「アート思考」をみんなで実践していきませんか?
どうも、ありがとうございました。